幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
 そんなどうしようもないことを考えながら、鏡に向かって二の腕をつかんでいると、健一郎が洗面所に入ってきた。

「おはようございます。どうしたんですか?」
「わっ! あ、いや! なんでもない!」

 私は、つい目をそらす。
 今まで自分が考えていたことが恥ずかしかったからだ。

「三波さん? どうしました?」
「別に何でもないってば!」

 叫んで健一郎を見ると、私の胸はまた急にドキドキとなり始めた。
 おい、ちょっと待て。落ち着け。止まれ、心臓! いや、死ぬ。収まれ、心臓!

 健一郎が不思議そうに手を差し出して、思わずびくりと身体を震わせ身を引く。なぜか目に涙まで浮かんできた。

「そんなに怖がらなくても……。僕は待ちますよ。もうこれまでも十分待ってきたんですから」
「待つって」
「三波さんが僕に抱かれる覚悟を持ってくれるまでってことです」

 その言葉を聞いて、ボン、と顔が熱くなった。
 健一郎が少し驚いた顔をして一歩私に近づいてくる。

「気持ち悪い、って言わないんですね」

 そう言われて、思わず健一郎を睨みつける。なんでそんな意地悪なことをわざわざ言うのだ。

「少しだけ、触れますよ」
 そう言って、健一郎は私の頬を撫でた。
 その熱い指先の感触に泣きそうになる。顔を上げると健一郎と目があった。

(私、いつか健一郎とそういう事するのかな……)

 そう思ってぎゅうと自分の手を握る。
 そのとき、先ほどの体重計の数値が頭に思い浮かぶ。

(でも確実に今はいやだ。絶対に嫌だ……!)

 慌てて健一郎の手をはねのけ、健一郎を威嚇するようににらんでいると、健一郎は苦笑してこちらを見た。

「睨んでもかわいいだけで逆効果だって、いつ気づいてくれるのでしょうか」
とため息をつく。
(どういう意味よ?)
 そう思ったところで、健一郎は私の唇に軽いキスを落として、唇が離れたと思ったら、なんと次は首筋にキスを落としたのだ。
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