きみはハリネズミ
早く、離れなきゃ。


茅ヶ崎律は危険だ。


私が守ってきたものが壊れていく音がする。


目を閉じて耳を塞いで、そうやって自分を演じてきたのに。


見えないようにしてきたのに。


人気者なんかに関わるな。


心のどこかでそんな声が聞こえた。


茅ヶ崎くんは違う世界の人なんだ。


濁った心を隠すように私は笑顔を顔に浮かべた。


「うちのクラス白のペンキたくさんいるから足りないかもね。私買ってくるよ」


笑ったなら、誰も私の気持ちになんて気付かない。


誰も私に触れられない。


「危ないし俺も行く」


体を起こして茅ヶ崎くんは言う。


「いいよ、たかがペンキ1缶だから。申し訳ないけど行ってる間線画1人でお願いできる?」


私は立ち上がりつつスカートについた木屑を払う。


下書きはもうそれほど残っていないし、帰ってくる頃にはほぼほぼ完成しているだろう。


「分かった、任せんしゃい。高坂さんが帰ってきたら色塗れるようにしとくわ」


ピースサインで答える茅ヶ崎くんにありがとうと言うと、彼はまた嬉しそうに笑った。

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