きみはハリネズミ
私は優里香の恋を応援するために、西野のことをよく観察するようになった。


廊下ですれ違う時、体育の合同授業で西野のクラスと同じになった時、授業中に携帯を使って怒られている西野の横を通り過ぎるとき………


西野はクールでよく分からない男だったけれど、なぜか人を惹きつける目をしていた。


切れ長で、海の凪が映っているかのように澄んだ瞳。


私はいつの間にか、その瞳から目を逸らせなくなった。


最寄りのバス停が同じだと気づいたのはちょうどその頃だった。


真夏の焼け付くような暑さの中、西野の姿を見つけた。


カッターシャツの第二ボタンまでを無造作に開けて、下敷きで風を送る姿は私の心を引っ掻いた。


不意に西野が振り返って私の姿をその目に捉えた。


『…高坂だっけ』


『うん』


『明日って体育第2体育館に変更?』


『うん』


『そっか。さんきゅ』


それが西野と初めて交わした言葉。


西野が笑った時、優里香が言った言葉が頭の中を駆け巡った。





“普通のことだけど、なんか胸がぎゅってなって、あぁ、私西野のこと好きだなって”







私、西野のこと好きかもしれない。




好きになっちゃいけない。




だけど、汗で張り付いた西野のシャツが、茶色に染めた髪が、私の脳を侵していく。


火照った体を鎮めるように、私はコンビニで買った冷たいオレンジジュースを口に含んだ。
< 30 / 73 >

この作品をシェア

pagetop