きみはハリネズミ
強制的に乗せられた自転車の後ろは、不安定で頼りなくて、茅ヶ崎くんに掴まるしかなかった。
「ちゃんと掴まってないと危ないよ」
不意に茅ヶ崎くんの大きな手が私の手の甲に回って強く引かれた。
「わ」
茅ヶ崎の広い背中に頬が触れた。
同時に顔に熱が昇るのが分かった。
細い、腰。
身長は高いのに。
とくん。とくん。
自転車を漕ぐ茅ヶ崎くんの心臓が少し速いリズムを刻んでいる。
暖かくて大きな背中はなぜだか涙が出そうだった。
「茅ヶ崎くん」
「んー?」
茅ヶ崎くんの声がいつもより近くで耳に響く。
「酷いこと言ってごめんなさい」
たとえ茅ヶ崎くんが忘れたふりをしてくれていたとしても、無かったことにしたくなかった。
あの日涙を飲んだ痛みを、苦しさを、私は知っているから。
「高坂さんは悪くないよ」
「でも」
「あれは俺が無神経過ぎた。こっちこそごめん」
違う。
「茅ヶ崎くんは悪くない…!」
涙を拭ってくれた手を振り払って投げつけた言葉は、きっとずっと消えない。
言葉はノートに書いた文字みたいに消しゴムで消えてなんかくれないんだ。
「……俺が悪くないなら高坂さんも悪くないよ」
静かな、柔らかい声だった。
けれどその声は緊張していた心を溶かすのには十分で。
嫌いだったはずなのに、今は体に触れる暖かさが嫌じゃなかった。
「ありがとう」
ぎこちなく伝えれば、茅ヶ崎くんは腰に回した私の手の甲をぽんぽん、と2回叩いた。
「ちゃんと掴まってないと危ないよ」
不意に茅ヶ崎くんの大きな手が私の手の甲に回って強く引かれた。
「わ」
茅ヶ崎の広い背中に頬が触れた。
同時に顔に熱が昇るのが分かった。
細い、腰。
身長は高いのに。
とくん。とくん。
自転車を漕ぐ茅ヶ崎くんの心臓が少し速いリズムを刻んでいる。
暖かくて大きな背中はなぜだか涙が出そうだった。
「茅ヶ崎くん」
「んー?」
茅ヶ崎くんの声がいつもより近くで耳に響く。
「酷いこと言ってごめんなさい」
たとえ茅ヶ崎くんが忘れたふりをしてくれていたとしても、無かったことにしたくなかった。
あの日涙を飲んだ痛みを、苦しさを、私は知っているから。
「高坂さんは悪くないよ」
「でも」
「あれは俺が無神経過ぎた。こっちこそごめん」
違う。
「茅ヶ崎くんは悪くない…!」
涙を拭ってくれた手を振り払って投げつけた言葉は、きっとずっと消えない。
言葉はノートに書いた文字みたいに消しゴムで消えてなんかくれないんだ。
「……俺が悪くないなら高坂さんも悪くないよ」
静かな、柔らかい声だった。
けれどその声は緊張していた心を溶かすのには十分で。
嫌いだったはずなのに、今は体に触れる暖かさが嫌じゃなかった。
「ありがとう」
ぎこちなく伝えれば、茅ヶ崎くんは腰に回した私の手の甲をぽんぽん、と2回叩いた。