きみはハリネズミ
自転車を置いてくるから先に戻ってて、と言う茅ヶ崎くんを後に教室へ足を踏み入れると、一斉に鋭い視線が刺さった。



え……



何……?



嫌な予感がして教室の後方に目を向けて言葉を失った。







無残に切り裂かれた衣装と、刃物で傷つけられてささくれだった立て看板。


丁寧に作り込まれた作品で所々不相応に鮮やかな色を放つのは、絵の具の赤色だ。






まるで悪意の象徴のようだった。




「なに……これ………」


「なにこれじゃないんだけど。こんなことして楽しかった?」


派手なグループを率いる天川さんが私を睨みつける。


「私、こんなことやってない…!」


「じゃあこれは何なんだよ!」


「………っ!?」


天川さんが顎で指し示した先には、私の名前が入ったハサミにカッター、赤い色のアクリル絵の具だった。


何で。


誰がこんなこと。


茅ヶ崎くんと学校を抜け出す前、確かにこの看板は昨日のまま、傷ひとつない状態で倉庫にあった。


この傷は自然に付くものなんかじゃない。


誰かが悪意を持って傷をつけたんだ。


そして、私に罪を着せようとした。


ぞっとして全身が粟立った。


私を陥れようとした誰かがいる。


その悪意の前では私の“やってない”という言葉は意味を成さないんだ。
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