きみはハリネズミ
「高坂さんは違うよ」


後ろから聞き慣れた声がして振り返ると、息を切らせた茅ヶ崎くんが教室に入って来るところだった。


「志谷先生から大体のことは聞いた。文化祭活動が始まってから俺と高坂さんは校外にいたし、始まった時はちゃんと傷が付いてなかったのも見てる。

だからそれやったのは高坂さんじゃない。敢えて高坂さんのものを使った可能性もあるのに犯人って決めつけるのはちょっとむごいんじゃない?」


茅ヶ崎くんの言葉に教室の空気がふっと緩む。


天川さんは気まずそうに俯いて、小さくごめんと呟いた。


「じゃあ誰がやったんだよ」


「クラス全員教室で作業してたよね」


「他クラスってこと?」


「何のために…」


「高坂さんが茅ヶ崎くんと2人なのが許せなかったとか?」


「ありえる」


どこかから湧き出るように教室が騒がしくなって収集がつかなくなり始めた教室で、誰かが「ていうかさ、」と言葉をこぼした。









「あと2週間でこれどうすんの?」




教室が水を打ったようにしん、と静まり返って、皆が息を飲むのが分かった。


そうだ。


もうあと2週間しかない。


作り直すにしたって費用が足りないし、そもそも間に合うかも分からない。


たとえ間に合ったとしても夏休み前から少しずつ、コツコツと作ってきたクオリティーには届かない。


「いっそ内装やめるか…?」


「看板はどうすんのよ」


「…やり直すしかないだろ」


教室の端でもうやだ、とか細い声が上がった。


「うちら受験生だよ…!?もう無理だよ、できないよ」


「…じゃあ諦める?」


「それこそ無理だろ、うちのクラスだけなんて」


「じゃあどうすんの!?もう時間もお金もないんだよ!?」


「金がないのはもともと衣装が使いすぎたせいだろ!」


「あんたらだって要らないもの買ってたじゃん!」


「はぁ?お前が許可したんだろうが!金の管理くらいしろよ!」


「知らないよ、私会計役じゃないもん!」


怒号。溜め息。泣き声。


教室が嫌な空気で満ちていく。


努力の残骸は教室の後ろで、静かに私たちを眺めているだけだった。
















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