きみはハリネズミ
足が震えた。


握りしめた手は白くなって、じっとりと汗が滲み出る。


息が浅い。


心臓が早鐘を打つ。


だけど、私が言わなきゃ、


私が、


「…………っ」


「なこ」



右手に温もりが触れる。



そっと、大丈夫だと言うようにゆっくりと指が絡まって、それから優しく教室の中心へと押し出された。



その手が誰のものなのか、確かめなくてもすぐに分かった。



『自分に未来を贈れるのは自分しかいないんだよ』



小さく息を吸う。




「私は、」


声は震えていたけれど、口を閉ざそうとは思わなかった。


「私は諦めたくない。最後なんだ、こうやってみんなで一緒に何かを作るのも、同じ時間を過ごせるのも。

受験が終わったらみんなバラバラになる。もう2度と会えない人もいるかもしれない。まだ終わったわけじゃないでしょう?それなのに、こんなところで諦めるなんてしたくない…!」


一息に言い切って、は、と息を吐き出す。


心臓がバクバクと耳元で鳴り響いていた。


「じゃあどうすんだよ。口で言うのは簡単だけどさ、やんのは別でしょ」


「待って」


反駁する声を片手で制したのは天川さんだ。


「何か……あるの?」


探るように天川さんが私に聞いた。


私に集中する皆の視線に体が竦む。


「…もしボロボロになった衣装と看板を生かせれば、まだ間に合うかもしれない。

赤い絵の具とかでもっと衣装を汚して、ゴシックホラーみたいな感じで。元々お化け屋敷っていうホラーのジャンルも候補にあったし、照明を暗くすれば雰囲気も出るんじゃい…か……と…」


静けさに居たたまれなくなって最後は尻すぼみになった。


私が黙ると教室はいよいよ誰も喋らなくなって、隣のクラスの騒がしい笑い声が教室いっぱいに響いた。


あ、れ……?


私、何か間違えた……?


不安になって振り返った瞬間、誰かの手が頭に乗った。









そして









ぐしゃりと荒々しく撫でられる。






「……!?」







「………でかした!これで俺らも文化祭できる!」



茅ヶ崎くんの興奮した声を皮切りに、教室中で歓喜の声がわぁっと弾けた。



「え、何?どういう…?」



「高坂さんが変えたんだ。届いたんだよ、ちゃんと!」



周りを見渡すと、誰ももう鋭い視線を投げかける人なんていなくて。


「よ、よかっ……」


安心したら力が抜けて、私はへたりとその場に座り込んだ。


「高坂さん…!?」


茅ヶ崎くんが慌ててしゃがみ込む。


「大丈夫…腰が…抜けて」






届いたんだ。







私の声が、想いが。







ちゃんと、誰かの元に。







嬉しい ───────


















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