きみはハリネズミ
「茅ヶ崎お前何やってんの?」


「「え?」」


茅ヶ崎くんと私の声がハモる。


「それ、俺のノート」


野球部の前川くんが指をさしたそれは、なぜか茅ヶ崎くんの手によってみんなから私の顔を隠していて。


「あ……いや、なんか高坂さんがあまりにもいい笑顔だったから、つい……」


「意味不明」


前川くんはバッサリと切り捨てる。


「お前さ、もしかして……」


「〜〜〜っ!高坂さん!」


名前を呼ばれて反射ではい、と返事をする。


「ペンキとかまだ倉庫だから取りに行ってくれる?」


あ、そっか。


看板はみんなが運んできてくれたけど、ペンキは置きっ放しなんだ。


あの赤いペンキが役立つ日が来るなんてな、と小さく笑う。


「取りに行ってくるね」


「うん、お願い」


微笑む茅ヶ崎くんに前川くんがボソリと突っ込む。


「逃げたな」


「うっせ」


そんな会話を後に教室を出て行く時、騒がしさに混じって茅ヶ崎くんの微かな声が聞こえた気がした。




「独り占めしたいとか何してんだ、俺…」
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