きみはハリネズミ
「高坂さん?」


「え」


近すぎる距離で顔を覗き込まれ、私は思わず声をあげた。


茅ヶ崎くんの柔軟剤の匂いが鼻孔をくすぐる。


「随分と深刻な顔をしてるから体調悪いのかと思って」


大丈夫?


そう言って彼は自転車のスタンドを下ろす。


「あ…大丈夫。考えごとしてただけだから」


私は慌てて笑顔を浮かべた。


笑顔のポイントは口角を上げること。


目尻を下げて、でも不自然にならないように控えめに。


「茅ヶ崎くん今日部活オフでしょ?私なんかに構ってないで存分に満喫してきなよ」


線を引く。


越えられない線を、私と彼の間に。


そうしたら傷つかなくていい。


あの日みたいに、涙を飲み込まなくてもいい。



< 6 / 73 >

この作品をシェア

pagetop