きみはハリネズミ
「だから、俺はやらないって!」


開会宣言早々、教室に茅ヶ崎くんの悲痛な声が響いた。


教室の端では、なにやら男子たちが茅ヶ崎くんを囲んで懇願しているみたいだった。


「頼むって!ミスターコンお前が出ないと盛り上がらんから!」


「知らねぇよ…!」


「律、お願いだからメイドやって!」


「お前のメイド服があればうちのクラスは安泰なんだよ」


「絶っ対嫌だ」


茅ヶ崎くんは頑として首を縦に振らない。


頑なな茅ヶ崎くんにじゃあさ、と話しかけたのは前川くんだ。


「ミスターコン出たらメイドやらなくていい。逆も然り、メイドやりゃあミスターコン出なくてよし」


「その2択俺にメリットねぇじゃん。しかもなんで前川がそんなの決めてんの」


「お前看板しかしてねぇだろ。あと俺文化祭実行委員だから」


「………っ」


人気者は大変そうだな、と私は頬を緩めて開店準備に向かう。


シフトは交代で1時間半制。


私は午前と午後に1回ずつ厨房に入ることになっている。


メニューの呪クッキーは、味見をさせてもらったけどなかなかに美味しかった。


「高坂さんは…!?高坂さんも看板だけだよね!」


半分ヤケクソで私を巻き込もうとした茅ヶ崎くんと目が合う。


…私にどうしろと。


残念だけど、助ける術は持っていない。


「バカ、高坂いなかったらうちのクラス死んでたっつーの」


「早く決めんべ。3、2……」


急かすカウントに茅ヶ崎くんが音を上げた。


「あ〜〜もう!ホール入るよ!ただしメイド服は着ない!ボーイの服だからな!」


茅ヶ崎くんが白旗を上げると同時にパンパン、と尋が手を叩いて集合をかけた。


ぞろぞろと尋を囲んで円陣ができる。
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