きみはハリネズミ
「ねぇ、なこちゃんって役割当たってたっけ?」


「え」


突然名前を呼ばれて発した声はあまりにも間抜けだった。


慌てて窓の外から教室に視線を戻して、黒板の文字でやっと状況を把握する。


そうだ、文化祭。


うちの学校は毎年高校のクオリティを逸脱するくらいに熱心に取り組んでいて、ミスコンやレーザーを使った軽音コンサートなどバラエティにも富んでいる。


私たち3年はクラスで体験型の展示発表をする予定だけど、今のところメイドカフェかお化け屋敷かで票が別れているみたいだ。


どちらにしても私には関係ない。


大道具か小道具か、その他大勢の1人になってそれなりに仕事をこなせば目立つこともないだろう。


「私大道具か小道…」



「高坂さん立て看板回って貰えばよくね?」








今度は声も出なかった。


私は強張った顔で恐る恐る声の元を辿る。


ピラミッドの一番上。


一番上手に網を潜った人だった。


「だって高坂さん他んとこ入ったら残り野郎ばっかだぜ?男だけで立て看板とか無理っしょ、審査あるのに」


「高坂さん器用そうだしさぁ」


あぁ、やっぱり。


私がどれだけ一生懸命泳いでも、この人たちには敵わない。


「なこちゃん立て看板いける?」


私に否定する権利なんてくれないくせに、


私が1人でいることを拒むくせに、


上手く泳ぐことを許してはくれない。


例えるならそう、イチゴミルク。


甘ったるくて絡みついて、私は息継ぎが出来なくて苦しいんだ。



「なこちゃん?」


「…大丈夫だよ」


だけど私はそれを跳ね除けられるほど強くなかった。


私はみんなみたく生きるには意地っ張りで臆病過ぎたんだ。



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