雨と霧と煙の異世界生活


「あの…!」



そんなことを考えていると、黒髪の少女が声をかけてくる。



「…何だ。」



「あの、楓は…この人は、無事ですか…!?」



…粗方妹、と言ったところだろうか。



隣に居る姉らしき人も、かなり心配した表情をしている。



しゃがみ込んだまま、少年の怪我の程度を見る。



「…肋が三本折れていて、右目はかなりの重傷…下手すれば失明…。」



「…!!」



「喉にもかなりの傷だ…暫くは声を出せないかもしれないな。」



そう言いながら、少年の怪我の程度を見続ける。



「…が、命に別状はない…といったところだ。」



「…ほんと、に…?」



「ああ。」



そう言うと同時に、緊張の糸が解れたように、妹らしい少女はその場に崩れ落ちる。



「良かった…良かったよ、楓っ…」



涙が零れるのも気にせず、少年に覆い被さって泣きじゃくる。



…俺がもし、もう少し早く来ていれば…この少年がここまでの怪我をすることも…戦うことも、まずなかった。



俺はまた…そんな失敗を…



「あの。」



…次は、姉らしき女性が声を掛けてくる。



「…何だ。」



そう言うと、女性は頭を下げる。



「…この子を…助けてくださり、ありがとうございますっ…」



…きっと、心底不安で、心配で…怖かったろう。



「…俺は何もしていない…殆ど、この少年が自分でやったことだ。」



「でも、あなたが来なければ…この子は死んでました。」



…それでも、遅かったことに違いはない。



俺がもっと早く来ていれば…この少年の目は…



「…楓、」



女性は少年の頬に手を添え、愛おしむように、泣きそうな顔で微笑んだ。



「…生きてて、良かった…。」



…俺は、あと少しで…この笑顔を、奪うところだった。



「…とりあえず、その少年は俺が背負おう。」



「え…?」



「治療が必要だ。」



蝶屋敷にでも連れて行くか…などと考えながら、少年を背負う。



…この少年…男の割には、軽い。



「あ、ありがとうございます…私達は…?」



「…安全な場所に連れて行く約束をした、付いてきてくれ。」



そう言えば、二人は頷きながら付いてくる。



「…名前、聞いてもいいか?」



好奇心、というものに駆られ…思わず問い掛ける。



すると隣を歩き、少年を心配そうに見つめていた姉らしき女性が答える。



麗子「私は総魔麗子…その女の子は総魔雅…。そして背負ってもらっているのが、総魔楓です。」



…やはり姉弟か…そして、この少年は…楓。



麗子「あなたは…?」



少し控えめに聞かれ…聞いたのだから答えねば、ということで答える。



冨岡「…冨岡義勇。」



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