無邪気な彼女の恋模様
自席に戻った私に、すかさず波多野さんが尋ねてくる。

「手伝いどうだった?」

「まだやってないので何とも。とりあえず私は水戸さんとチームを組んで製本作業をすることになりました。」

「水戸さんと?」

波多野さんが眉間にシワを寄せて怪訝な表情をする。
訳がわからず首を傾げると波多野さんは声をひそめて言う。

「百瀬、水戸さんには気をつけろよ。」

「どういうことです?」

「あいつ、問題起こしまくりの要注意人物だから。」

「…はあ。」

問題起こしまくりってどんな人だろうか。
でも問題起こしてもクビにならずに働けているのだから、そんな大きな問題ではないのかもしれない。
私の煮え切らない返事に波多野さんは不満そうな顔をする。

「木村さんもいるし、大丈夫ですよ!」

私がガッツポーズをすると、波多野さんは更に不機嫌になった。

「ほんと、木村のこと好きなのな。」

「そうですねぇ。ファンです。ファン。大丈夫、波多野さんのことも好きですよー。」

「あー、はいはい。」

私の軽口に波多野さんは手でいなすと、さっさと自席へ戻っていった。

そうやって軽々しく「好き」だなんて言えるのも、波多野さんに彼女がいるからだ。
私なんて相手にしてもらえないし、ましてや振り向いてもらう気もないから、そう言える。

だけど、「好き」って気持ちは本当なんですよーだ。
波多野さんには何も響かないと思うけどね。
< 11 / 100 >

この作品をシェア

pagetop