無邪気な彼女の恋模様
波多野さんから電話なんて、緊急時以外かかってきたことはない。
もちろん自分からもかけない。
私だって彼女持ちの人に電話をかけるほど野暮ではない。
ということは何か連絡事項があるのかもしれないと思い、かけ直してみた。
数コールの後、聞き慣れた声が耳に響く。

「どうした?」

それだけで、強張っていた体の力がするすると抜けていく気がした。
とても安心する声に、思わず目頭が熱くなる。

「どうしたって、波多野さんが掛けてきたから折り返しの電話なんですけど。」

泣きそうになるのを誤魔化すために、嫌みっぽく言ってみたのに、波多野さんはとぼけた回答をする。

「あー、そうだったか?ごめん、間違えた。」

「間違えたって、えー?」

私が不満そうな声をあげると、電話の向こうでカラカラ笑う声が聞こえる。

「木村はどうした?」

「どうしたって、あ、お金も払わずに逃げてきちゃった。」

そういえば逃げるようにしてお店を出てきちゃったんだった。
ヤバいよね、どうしよう。
でも戻る勇気もないし。
あんなことがあった訳だし。

私が頭を悩ませていると、波多野さんが言う。

「百瀬、今どこにいる?」

「まだ駅前にいますよ。」

「じゃあもうちょっとそこで待っとけ。俺いま会社出たとこだから。」

「はい?」

意味がわからずスマホごと首をかしげる。

「飲み直すぞ。」

その言葉に、私はそのまま倒れそうになった。
飲み直す…んですか?
ええっ?!
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