無邪気な彼女の恋模様
波多野さんから着信拒否をしろと言われたけど、そんな突然あからさまな態度を取る勇気もない私は、とりあえずメッセージの通知をオフにした。
リアルタイムに返信はしない。
おはようのメッセージには無視をすると決め込んだ。

だけど、お昼休みや家に帰ってスマホを確認すると、相変わらずのおはようのメッセージが入っている。

どうしよう?
はっきり言う?
訴える?

でも、実は水戸さんは部署は違うけれど同じフロアで働いていて、しかも水戸さんの席はコピー機の隣だ。
コピーを取るときには絶対といっていいほど話しかけられるし、無視するわけにもいかない。
ほら今も、印刷しなければいけないものが手もとにあるのだ。
いないときを見計らいたいけど、なかなかタイミングよく席を外していない。

はー、仕方ない。
仕事は仕事だから、割りきって行くしかないよね。

意を決してコピーを取りに行くと、案の定話しかけられた。

「今日は空気が乾燥してるね。飴食べる?」

そう言って水戸さんはアメをひとつ差し出してくる。
これは、受け取らないわけにはいかないよね。

「ありがとうございます。」

素直に受け取ると、水戸さんは笑顔で言う。

「今度ランチどう?」

「あー、えっと、」

私がメッセージを返信しないからか直接誘ってくる水戸さんに、どう断ろうか渋っていると、突然大きな声で名前を呼ばれた。

「百瀬!」

振り向くと波多野さんがぐいっと腕を引っ張ってくる。

「お前に電話。」

言われて、私は慌てて印刷物を取り出してパタパタと席に戻った。
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