無邪気な彼女の恋模様
「こちらこそ、逃げるような感じになってしまってすみませんでした。あ、お金、払いますね。」

お金も払わず飛び出して、その後も気になりつつも波多野さんに“払わなくていい”と言われ結局踏み倒した食事代。
やはり木村さんを前にすると罪悪感が芽生えてしまう。

「いや、いいよ。」

木村さんは苦笑しながらコーヒーを飲む。
そして少し神妙な面持ちで私に助言をした。

「でもさ、百瀬さん気をつけてね。波多野、元カノに相当未練があるから。」

「え?」

「一時期波多野の元カノと僕が付き合ってたんだけど、波多野が元カノと連絡取りまくってて、それが原因で結局僕はその彼女と別れてしまったんだ。もしかしたら今でも通じてるかもしれないから、気をつけてね。」

波多野さんの元カノ?
今でも通じてる?
それって誰のこと?

「不安にさせちゃったかな?ごめんね。」

「…いえ。」

“ちなみさん”という思い当たる節があって、私は胸の辺りをぎゅっと抑えた。
なんだかわからないけどチクチク痛む。
波多野さんに電話を掛けてきたちなみさんは一体誰なんだろう?
忘れていたもやっとした気持ちが復活してしまい、急に心配になった。

木村さんと別れて自席へ戻ると、もう昼休みが終わるところだった。
結局昼食は食いっぱぐれてしまった。
斜め前の席を見ると、波多野さんは机に突っ伏して爆睡している。

こっちはモヤモヤしてるのに呑気だなぁ。
人の気も知らないで。

はぁと小さくため息をつきながら私は気休めに飴を口に入れた。
飴ごときではお腹も心も満たされなかった。
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