クールな婚約者との恋愛攻防戦
「あの、樹さんは?」

そう尋ねると、


「二階にいるよ。おい、樹! 何してるんだ! 愛梨さんが来てくれたぞ!」


お父様がそう言って二階にいるらしい樹君へと呼び掛けてくれる。

するとすぐに、樹君が階段から降りてこちらへ向かってきてくれたけれど……


笑顔な訳はなく、かと言ってデフォルトと思われるあの無表情ともどこか違い……


(わあ、機嫌悪そう)

と、思ってしまった。
どうやら一週間経っても、彼にとってこの同棲は不服なままなんだなということが分かる。


しかし、そんなことはお構いなしに父達は話を進め、


「樹君。愛梨をどうぞよろしくお願いします」

「あ、は、はい。勿論です……」

などとそんな約束を交わさせられていた。
それでも、私の父の前では丁寧な所作で頭を下げてくれる。



それからすぐに、父とお父様は帰っていった。
いつまでも自分達がいては邪魔になるから……という、父達なりの配慮……? だと思われる。


まあ、すぐに実家に帰れない距離でもない。私は車を持ってないし、そもそも免許もないけれど、駅までは歩いて近いし。

なので私も父達をあっさり見送った。


そして、二人きりになった別荘のリビングで、改めて樹君に向き直る。



「樹君、今日からよろしくね!」



笑顔で明るくそう言うも、樹君はこめかみに親指と人差し指を充てて、「はあ……」と深めな溜め息を吐く。


「ちょっと。溜め息って酷くない?」
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