クールな婚約者との恋愛攻防戦
仕事が終わって帰宅してきた樹君は、その光景を見て驚いていた。



「……美味そう」

ほぼ無表情だけれど、確かに驚いている。

それもそうだろう。
リビングのテーブルの上に、たくさんのご馳走が並べられていたのだから。


「愛梨が作ったのか?」

うん、そうだよーーと答えたかったけれど、さすがに嘘は吐けない。


「ううん。日中、実家に電話して、家政婦さんにここまで来てもらったの。その、お料理を教わりたくて」

「料理を?」

「うん。独学よりは、誰かに教えてもらった方が上達も早いと思って。だけど、家政婦さんがやたら張り切っちゃって、教えてくれながらこんなにたくさん作っちゃって……」


私が小学生の頃からお世話になっている家政婦の吉田さん。
お料理や掃除をしてくれるだけでなく、母が不在の時には遊び相手にもなってくれたっけ。

そんな吉田さんは、私の結婚をとても喜んでくれて、素敵な結婚生活になるようにと、それはもう嬉しそうにたくさん料理を教えてくれた。


「家政婦さんからは、愛梨さんが作ったって言えばいいですよーって言われたんだけど、さすがに嘘は良くないし、そもそもそんな嘘すぐバレちゃうだろうし……。
一応私も頑張ったんだけど、料理のセンス全くないみたいで、唯一自分で作った煮物も凄くしょっぱくなっちゃった」


自虐気味に笑いながらそう言うと、樹君はテーブルの上に置かれた箸で煮物を掴み、私が止める間もなく、それを口に放り込んだ。

すると。


「……美味いよ」
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