クールな婚約者との恋愛攻防戦
私からそう問われた藍実さんは、一瞬目を見開いて驚いた顔をするも、直後ーー



「なんだ。バレちゃってましたか」

と、何の悪びれもなさそうな笑顔を見せてきた。

更に。



「ふふ。その電話を聞いてしまったこと、樹は知ってるんですか?」


と聞いてきながら、また笑った。


何でそんな余裕の態度で笑ってるの?
浮気がバレたことなんてどうでもいいから?


自分の旦那さんのことだって裏切っているのに……。




「……樹さんは、私が電話を聞いていたことは知りません」

「あはは。じゃあそのまま知らないフリしておきましょうか」

「……っ!」


明らかにバカにされていることが分かり、頭にきた。


「私は真剣に話をしてるんですっ!」


落ち着いた店内に似つかわしくない大声を出すと、近くを通りがかったウェイターの視線を感じたけれど、気にせず話を続けた。


「それなのに、さっきからそんな風に、どうでもいいことみたいに笑ったりして!」

「……じゃあ、どうしてほしいの?」

「え?」


戸惑いっぱなしの私とは違い、藍実さんは笑いながら強気な表情を浮かべ続けている。



「樹とコソコソ連絡取らないでって言いたいんですよね? でも、夕べ電話してきたのだって樹の方からですよ?」

「えっ……」

「私も樹も、政略結婚で仕方なく結婚した相手との生活なんてつまらないんですよ。でもそれは、愛梨さんだって一緒でしょ? 私の気持ち、分かりますよね? 愛のない生活なんて時々、虚しくならない?」

「私は……っ」


私は虚しくなんてない。
樹君と一緒に過ごす毎日は、とても楽しい。苦手な料理だって、彼の為なら頑張れるもの。


樹君だって、徐々に私に気を許してくれているのを感じる。


頬にキスだって、してくれた。


でも……



それが全て、嘘だった?

樹君が本当に好きなのは……藍実さんなの?
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