クールな婚約者との恋愛攻防戦
しばらくして、車が私の家の前に到着した。

いったん門の前に車を停めてくれた樹君は「車、どこ停めればいい?」と尋ねてくるけれど。


「……私だけ降りるから、樹君は別荘に戻っていいよ」

「……何でさっきから不機嫌なの? ちゃんと言ってくれないと分からないんだけど」


分かったらどうなの?


私の機嫌も、気持ちも、本当は関心ないくせに。
陰でコソコソ浮気するにしても、表面上は私と仲良くしていないといけないからそういうこと言うんでしょ?


ーーだったら、全部言ってしまえ。




「私、夕べ聞いたんだから! 樹君が怪しい電話してるところ!」

「怪しい電話? あ……」

当然、思い当たるところがあるようで、樹君が珍しく分かりやすく動揺する。


「凄く怪しかった。こんな時間にしか電話出来なくてごめんとか、旦那さんにはバレてないかとか……こ、婚約者にも気付かれないようにするとか言ってて……」


こんなことを言わなければならないことが、悲しくて、悔しくて、遂に堪えていた涙が溢れてくる。
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