クールな婚約者との恋愛攻防戦
「樹君、浮気なんてするようなタイプには見えなかったけどなぁ」

と、腕を組みながらどこか圧を掛けてくる母に、ついイラッとしてしまう。


「私が嘘吐いてるって言うの?」

「そんなこと言ってないけど、愛梨は昔から、よく確認せずにすぐ思い込んじゃうことがあるじゃない」

「そんなこと……」


いや、あるかな?
思い込みが激しいということはないと思うけど、しっかり確認せずに突っ走ってしまうことは確かによくある。


……そう言えば車の中で樹君を問い詰めた時も、彼は何かを言い掛けていたような……でもちゃんと聞かなかったな……。



この家に帰ってきてから、彼とは連絡を取っていない。

……というか、別荘で暮らし始めてから毎日一緒にいたから、メールアドレスやメッセージアプリのIDを教え合う必要性を感じる場面がなく、連絡先を知らないのだ。

お互いの連絡先も知らない夫婦なんて、世の中探しても私達くらいじゃないだろうか。
もしかしたら、浮気されて傷付く資格すら私にはなかったのかもしれない。



そんなことを考えていた、その時だった。


家のインターホンが鳴り、家政婦さんが玄関へと向かっていく。


玄関からは何やら話し声が聞こえてきて、程なくして、家政婦さんがリビングへとやって来た。
そして。


「愛梨さん。樹さんが迎えにいらっしゃってますよ」

「えっ⁉︎」
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