私たちにできるだけ長いラストノートを
彼は、毎回講義の度に香水をつけてくれた。

私も香水を買おうと思い、一度は百貨店に行ったが、その香水以上のものがなかった。
それに接点がなくなることが嫌だったから、結局買わなかった。

そして、気が付けば講義がない日も会うようになっていた。
その度に、彼は香水をつけた手首で優しく私の首筋に触れた。

私の部屋に来る時は必ず香水を瓶ごと持ってくるから、アトマイザーの存在を教えた。

「うーん、要らないかな」
「そう?毎回重くない?」
「重いけど、他に解決策がある」
「私も同じ香水買えばいいのか」

そう言った私に、彼は「俺の部屋で一緒に住めばいいんだよ」と笑った。
私たちは彼の部屋で一緒に住むことになった。
「好き」や「付き合おう」なんて言葉は最初からなかった。

彼が手首で私の首筋に触れることが、彼と同じ匂いを纏うことが、愛情表現だった。

キスやそれ以上のことも、私たちにとってはその表現には敵わないと思った。
それは一緒に暮らし始めてからも変わらなかった。
こんな出会い方、運命じゃなきゃあり得ない。

疑いもなくそう思っていたのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
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