「可愛い」があふれる世界へ！

「わあ〜、おいしそう！行こう！」

仕事の話ではなく、可愛い服やスイーツの話などで二人は盛り上がる。若い女性らしい話ができて、花音は久しぶりに会話することが楽しいと思えた。その時。

花音のスマホに電話がかかってくる。そのかけてきた人物を見て、花音は一気にどん底に突き落とされた感覚を覚えた。

かけてきたのは花音の母だった。いつまでも電話は鳴り響いている。

「花音？どうして電話に出ないの？」

エリザベータが首を傾げ、花音は「あ、いいの。ちょっと今は……」と永遠のように鳴り響く電話を切った。

なぜかけてきたのか、花音にそれはわかりきっている。結婚式に出席しろと言うために電話をかけてきたのだ。今まで、花音の両親が遠い国にいる娘に心配の電話をかけてきたことなどなかったのだから。

ドクンドクン、と花音の心臓は嫌な音を立てる。エリザベータの話に集中することができず、花音は席を立って一度トイレへと向かった。

トイレの扉を閉め、何度も深呼吸をする。心にできた傷がズキズキとまた痛んだ。