302号室のふたり
私、大木奈子には生まれたころから一緒にいる幼馴染がいる。
 名前は草野太一。
 同じ年生まれの私と太一は太一が数か月先に生まれただけ、実家はお隣同士で母親同士が大の仲良し。
 そんな環境で高校まで過ごしてきたが、さすがに大学に進学すれば離れるだろうと思っていた。
 私と太一だと頭の出来も違うし、志望大学も学科もかなり真逆だったから。
 私は文系、教育学部で幼児教育学科の専攻。
 将来は幼稚園の先生になるのが目標で、頑張って受験して無事志望校に合格した。

 太一は理系で教員課程も取って理科の先生になるのが目標らしい。
 生物が大好きなので、たぶん専門的にとるのはそのあたりだろうと思う。

 そんな全く離れたことになりそうだった私たちだが、大学四年、卒業も間近に控えた現在も一緒にいる……。

 この原因はお互いの母にある。
 お互いの子どもが大学進学が決まった。しかし、家から通うにはちょっと遠かった。
 一人暮らしは、ちょっと心配だ、あれ?学部は違うけど同じ大学、キャンパスも同じだったことに気づいた母たちは、話し合って一部屋の賃貸契約をして子どもたち二人を前にして言い切った。

「一人暮らしは、太一は生活能力的に心配。奈子ちゃんは女の子だし、心配。そんな心配の解決策をお母さんたち考えて、部屋を借りました!」

 そう言って差し出されたのは同じ鍵が二本であった。

「あなたたち、二人で一緒に住んで大学に通いなさい! 奈子ちゃんは家事出来るし、あんたは一応男の子だから、一緒に住んでれば用心棒くらいにはなるでしょ!」

 太一のお母さんの発言に、ニコニコ頷く自分の母親。
 私はこの光景と言い分にがっくり脱力したのは言うまでもない……。

 「お母さん、太一も一応男の子よ? 同じ屋根の下にいくら幼馴染でも、年頃の子二人で住めってのはおかしくない?!」

 そんな私の返事には、隣であっけにとられていた太一も必死に頷いて同意を示す。

 そんな私たちに、母たちはあっさり無情に言い切った。

 「そこそこのやる気があれば、あんたらとっくにカップルでしょうが! それが今もって互いに相手がいないんだから、ここまで来ていまさらどうにもならないでしょう?」

 グサッと突き刺さる正論にぐうの音も出ない……。
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