302号室のふたり
 先にお風呂に入ると、リビングに無造作にカバンを放って行ったので私は、悪いと思いつつそっと覗くと、カバンには二つほどのいいサイズ感の箱があった。包装紙をみれば高級で美味しいことで有名なチョコレートのお店のものだった。

 「生徒からはもらわないし、これって同じ講師から? こんなのもらってきたならくれた相手に脈ありってことかな?」
 私は、フラフラっと冷蔵庫に近づき開けて作ったチョコの箱を取り出す。
 そして、そっとキッチンのごみ箱に入れようとしたとき、背後から声がした。

 「奈子? どうしたの?」

 タオルで髪を拭きながら聞いてくる太一に、私はくるっと箱を手にしたままそれを背に隠して振り返るとニコッと微笑んで言った。

 「ん? なんでもないよ。 そろそろ寝るね、おやすみ」

 私はサッと、小さな箱をルームウェアのポケットに押し込んでスッと太一の脇を抜けて自分の部屋に入ってカギをかける。

 「下手に渡さなくって良かった……。引っ越し先、決めちゃおう……」
 私はその日だいぶ遅くまで、スマホやPCを駆使して良さそうな賃貸物件を見つけると明日出かける用意をして、眠りに就いた。
 あげられなかったチョコの箱を枕元に置いて……。

 翌朝、私は寝られなかったにも関わらず、いつもの時間で起きてさっと朝食を作り置くと静かに家を出た。
 顔を合わせづらいのと、自分自身のヘタレ具合にほとほと嫌気がさしたのだ。

 頑張れない自分がいけないんだ。この機会にこの初恋も手放す時期なのかもと。
 不動産屋さんが開く時間まで私は駅のカフェで時間をつぶしていたのだった。

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