302号室のふたり
 どうやら気に入ってもらえたらしくホッと息をつく。

 「で、奈子のベッドに乗ってたこれって俺宛でいい?」

 そういうと、奈子は俺の手にある箱に再び目を丸く見開いた。

 「部屋に入ったの?!」
 驚く奈子に俺言い返す。

 「起きたらご飯だけしかなくって、前みたいに風邪で倒れてたらと思って入ったんだよ。結果、奈子の不在とルームシェア解消の動きを見て慌てたんだ」

再び腕に力を込めると、俺は奈子を抱きしめて言った。

「俺、ずっと昔から奈子が好きだよ。このままずっと一緒に居たい……。彼女になってくれませんか?」

奈子は俺の言葉を聞くとピクっとした後、そっと腕を持ち上げて俺の腕に手をかけた。

「ずっとって、いつからよ? 」

その問に、きっと奈子が驚くだろう答えを口にする。

「物心着いた時から、奈子は俺の特別な女の子だった。もう、片想い二十年近いよ」

そんな俺の答えにまた、奈子はその目を大きく見開いて驚きを隠さない。

「そんなに前から!? なんでもっと早く言わないの?」

奈子の言葉はごもっとも……。

「俺が口下手なのは奈子がよく知ってるだろ? それに幼馴染でも居られなくなったら、つら過ぎる……」

どこまでもヘタレな俺の言葉に奈子はふぅって吐息を吐くと、くるっと腕の中で向きを変えてぎゅうってくっついて来た。

なにこれ、すっごい可愛いんだけど……!!

内心で悶えていると、奈子は言った。

「ホント、どうしようも無いヘタレなんだから……。でも、口下手だけど優しくて、思いやりがあって、なんだかんだとこの四年で家事スキルまで上がった太一の事、惚れ直したんだよね」

そう言うと、顔を上げて奈子はニコッと笑って言った。

「太一が一緒に居たいなら、居てあげましょう? だって、私も太一が好きだからね。ヘタレでも!」

「あー、ホントごめん。でも、本当に奈子が好きだから出ていかれる前に言えてよかった……」

そんな俺に奈子は背伸びして俺の髪をクシャクシャにして笑って言った。

「昔っからギリギリなところは相変わらずよね。でも、間に合うんだから良しとしときましょうか。で?ランチはなにが食べたいの?」 

そんな問いかけに、俺は奈子の手を握って答える。

「奈子お手製ミートソースパスタ」

「お子ちゃま舌は健在ねぇ。良いけど、パスタ好きだし」

どうやら、超ヘタレな俺だけどなんとか離れる前に捕まえられたらしい。

ルームシェアは同棲に名前を変えて継続出来るようだ。

「ねぇ、お母さん達なんて言うと思う?」

「良いじゃない! くらいの反応じゃないか?」

「有り得る!」

今日からは、幼馴染のシェアメイトから幼馴染の彼女になった。

「奈子、いずれはここに指輪付けていい?」

繋いだ手を持ち上げて、珍しく積極的に薬指を撫でてみせたら奈子は赤面して、少しプンプンしながら返事をくれた。

「ヘタレのくせに! 三年は早いわ!」

なるほどね、それくらいバリバリ仕事して頑張るよ。

俺は未来に思いを馳せつつ、しっかり握った手を離さず俺たちの家へと戻ったのだった。 


Fin
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