俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
 この見た目だもの。声をかければ断る人などおらず、百発百中だったのかもしれない。だけどお生憎様。私をこれまでの誘い文句に乗った女性たちと一緒にしないでほしい。

 なにより久しぶりに再会した弟がいる前で誘うってどうなの? こんな人と食事になんて、行くわけがないじゃない。

キッと鋭い目を向けると、彼は戸惑った表情を見せた。

「えっと……瑠璃ちゃん?」

 躊躇いがちに名前を呼ばれたものの、彼には答えることなく膝を折って圭太君と目を合わせた。

「圭太君、本当にありがとうね」

「え……瑠璃ちゃん、ここでバイバイなの?」

 淡いブルーの瞳を大きく揺らして、今にも泣きそうな声で言われちゃうと「違うよ」と言いそうになり、慌てて言葉を飲み込んだ。

 これから忙しくなる。仕事に慣れるまでは大変だと思う。だから安易にまた会おうなんて約束、しないほうがいい。

「うん、これからお仕事に行かないといけなくて。……元気でね」

「そんな、これでお別れなんて嫌だよっ!」

 ギュッと抱き着いてきた圭太君。

「せっかく瑠璃ちゃんとお友達になれたのに……。僕はまた会いたい」

「圭太君……」

 離さないと言わんばかりにギューッと抱き着く圭太君に、悪いことをしている気持ちになる。
< 14 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop