俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
 副社長室の前で立ち止まると、課長は小声で言った。

「木名瀬さんもご存じの通り、東雲社長のご子息だ。キミなら大丈夫だと思うが……どうも破天荒なお方のようで」

「破天荒、ですか?」

 思わず聞き返すと、課長は咳払いをした。

「才能あるお方だが、イギリスと日本では勝手の違いもあるだろう。仕事面ではもちろん、プライベートのほうもしっかりサポートを頼むよ」

「はい、もちろんです」

 そうだよね、イギリスと日本の文化やマナーなど違いは多くある。その面も含めてしっかり秘書としての務めを果たしたい。
 なにより東雲社長にも頼まれてきたのだから、最善を尽くすつもりだ。

 よりいっそう気合いを入れると、課長はそっとドアを開けた。そこは秘書室。さらにその奥にあるドアの先に副社長室がある。

「副社長、失礼します。秘書の木名瀬とご挨拶をさせていただいても、よろしいでしょうか?」

 ドアをノックして課長がそう言うと、すぐに声が返ってきた。

「あぁ、入ってくれ」

 副社長の声を聞き、一気に身体中に緊張がはしる。

「失礼します」

 課長に続いて私も副社長室に足を踏み入れた。

 部屋の中央には応接セットのテーブルと革張りの椅子があり、真正面の大きなガラス張りの窓の前に、副社長のデスクがあった。だけど肝心の副社長の姿がない。
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