俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
 普通は副社長に受けるか確認するもの。しかし彼は『父さんの秘書だった瑠璃ちゃんから見て、今後、俺にとってプラスになりうると判断した相手とだけ会うよ』なんて言う。

 それだけ信用されていると前向きに捉えればいいのか、ただ単に、判断するのが面倒で私に丸投げしているだけなのか……。どちらが正解かわからないけれど、とにかく帰国してから気の休まる時がない。

「そろそろ疲れたって言ってくる頃ね」

 名刺を手帳に挟んで立ち上がり、秘書室内にある給湯室に入る。そこには急な来客にも対応できるよう、一通りの飲み物やお茶菓子のストックがある。

 副社長は一時間前から今夜の会食相手の情報と、明日の経営戦略会議の資料を頭に叩き込んでいる。あと一時間したら社内視察を予定していた。

 一週間も仕事を共にすると、副社長のことが少しずつわかってきた。書類に目を通したり、確認したりする事務作業が苦手で、そういう時ほど甘い物を食べたくなるようだ。

 昨日仕事終わりに買いにいったクッキーを皿に乗せる。
 そして甘い物には絶対珈琲。気分に合わせて豆も変えるくらいの珈琲好き。

 淹れたての珈琲とクッキーをトレーに乗せて副社長室のドアをノックすると、すぐに「どうぞ」の声が返ってきた。

「失礼します」

 室内に入ると、珈琲の香りに気づいた副社長が鼻をスンスンさせた。
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