俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
 別に私を誘わなくたって、副社長が声をかければ、大抵の女性は喜んで食事に付き合ってくれるだろうに。

「申し訳ありませんが、丁重にお断りさせていただきます」

 頭を下げると、副社長は「つれないなぁ、瑠璃ちゃんは」なんて言う。

「悪いけど俺、諦めが悪い男だから今後も誘うよ」

 何度誘われたって私が彼と食事にいくことはないのに。

「失礼します」

 それ以上は触れず、副社長室を後にした。


 都内のオフィス街にある二十三階建てのビルが、シャインズホテルの日本本社。そこで五百人あまりの社員が働いている。

 私が所属する秘書課は最上階にあり、他にも社長室をはじめ、重役室が並んでいる。

 出勤後はまず秘書課のオフィスへと向かう。そこで事務作業を済ませ、朝のミーティングを終えてから一日の勤務が始まる。

 昨夜の会食ではだいぶ話が盛り上がり、終わったのが二十三時過ぎだった。副社長は「お疲れ」と笑顔で帰っていったけれど、疲れは取れただろうか。

 そんな心配をしながら秘書課に向かうと、唯一の同期である細川(ほそかわ)美恵子(みえこ)が、私を見るなり駆け寄ってきた。

「おはよう、木名瀬さん。今日も相変わらずツンとしているのね」

「……おはよう」

 笑顔で嫌味を言う細川さんも、相変わらずのようだ。
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