俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
 四年前、ニューヨーク本社への異動が出た時に『勝ち逃げするつもり!?』なんて言いながら、『寂しい』と言って泣いてくれたのも細川さんだけだった。昔も今も、そんな彼女の存在に助けられていると思う。

 細川さんは身長百五十三センチと小柄で、清楚な人だ。だから最初に嫌味を言われた時は、本当に可憐な彼女が言ったのかと耳を疑ったほど。今は社長秘書を務めていると聞いて納得した。
 昔から見習わなくては、と思うほど仕事ができる人だったから。

「おはようございます」

 席につき、近くの同僚に声をかけると挨拶は返してくれたものの、みんなどこかよそよそしい。

 異動してきて一週間しか経っていないけれど、秘書課内でヒソヒソと噂されているのは知っていた。
 幼い頃から何度も同じ経験をしてきたから、そういうことには敏感に気づいてしまうんだよね。

 きっと昔と同じように、「愛想がない」とか「感じ悪い」とか言われているんだろう。

 初日はがんばって笑顔で挨拶をしたんだけど、どうやらその笑顔はぎこちなかったようで、あとから細川さんに「あの顔でよろしくお願いしますと言われても、恐怖を与えただけだったわよ?」って言われちゃったし。

 どうやったら自然に感情を表に出すことができるのだろうか。
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