俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
「とにかく私のほうでどうにかいたしますので、副社長はお仕事に集中されてください」

 ただでなくとも多忙な彼に、自分のことで手を煩わせたくない。

「そこは甘えてくれてもいいのに。なんなら、俺と付き合ってるって言っちゃおうか? 噂なんてすぐ消えるよ」

「それではまた新たな噂を生むだけです。……本当に大丈夫ですので。気に掛けていただき、ありがとうございました」

「甘えることは悪いことじゃないからね?」

 小さく一礼して副社長室から出ようとドアノブに手をかけた時、背後からため息交じりに言われた言葉。
 足を止めて振り返ると、彼は悲しげに瞳を揺らした。

「上司としてはもちろん、ひとりの男として頼ってくれたら俺はうれしいよ。それに忘れないでほしい。瑠璃ちゃんは女の子だってことを。相手は年下でも男だからね? どんなにがんばっても力では叶わないんだから。……困ったことがあったら、遠慮なく言うこと。わかった?」

「……は、い」

 思わず返事をしてしまったけれど、副社長を頼ることなんてできないよ。
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