俺様副社長は愛しの秘書を独占したい
 仕事中は常に厳しいけれど、普段はとっても穏やかで笑顔が似合う人だ。社長ということを鼻にかけず、常に低姿勢。社長の下で働く社員は誰もが彼を慕い、尊敬している。

 そんな東雲社長の秘書に抜擢された私の今日までの二年間は、充実した日々だった。毎日が勉強で、刺激があって楽しくて……。
秘書として働けることを誇りに思っていたし、本気でニューヨークに永住したいと思い始めた。しかしその矢先に辞令が下ったのだ。それも東雲社長直々に。

『息子の力になってくれないか? キミだからお願いしたいんだ』

 バツイチで、社会人になるお子さんがいるなんて私は知らなかった。てっきり今の奥様とは初婚とばかり思っていたから。

 事情を知っている先輩に聞いたら、東雲社長は社会人になってすぐに結婚し、二十五歳の時に息子さんが誕生。……しかし結婚相手は不慮の事故で亡くなってしまったと。
 それから東雲社長は男手ひとつで、息子さんを育ててこられたらしい。その息子さんはイギリス本社で経験を積み、このたび晴れて日本本社の副社長に就任する予定だ。

 その息子さんである副社長の秘書にとお願いされたのだ。
 尊敬する東雲社長に切実に頼まれたら、私に断ることなどできるはずがなかった。
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