全てを失っても手に入れたい女がいる 2
blackbirdの本社は、長年N町の郊外にあったが、今は日本で1番坪単価が高いと言われてる場所に、新たに20階のビル建設し昨年移転した。
本社を移転する際は、N町住民の反対が随分あったと聞いている。その上、コストカットの為と言って、今年は製造ラインまで海外へ移した。
その為、地元の多くの者は職を失う事になり、女までも県外へと働きに出なくてはいけなくなった。
バッカじゃねぇーのこんなとこに…
こんなもの建てやがって、いくらかかったんだよ?
だから、あんたは経営能力無いって言われるんだよ!
涼夜はblackbirdの本社である、ビルを下から見上げほくそ笑っていた。
さぁ、いつまでも待たせても悪い。
今日は、俺の方から上って行って上げますよ?
お父様?
(トントン)
大きな重厚感あるドアを、社長秘書である女性がノックする。
中にいる主の返事を聞いて、秘書はドアを開け涼夜が来た旨を伝えた。
「おー涼夜、忙しい所すまんな?」と、申し訳無さそうに迎える雅。
「いいえ。
お父様の忙しさに比べたら、僕なんて大した事ありませんよ?」
さぁ狸と狐の化かし合いの始まりだ。
楽しませてもらいますよ?
お父様?
「涼夜もコーヒーで良いかな?」
「お構いなく。と、言いたいところですが、多分、お話長くなりそうなので、僕は紅茶をお願い出来ますか?」
普段コーヒーしか飲まない涼夜を、不思議に思いながらも、雅は秘書にコーヒーと紅茶を持ってくる様に告げた。
「涼夜、事業の方がどうだ?
えーと、お前の立ち上げたブランドなんて言ったかな?」
「Angel kissです」
「そのAngel kissは若い女性に人気らしいじゃないか?」
「僕のは事業と言うほどの物じゃありませんよ?
趣味程度の店ですし、人気なんて物は水物と同じですから、直ぐに流れて無くなりますよ。
で、僕にお話があるとの事でしたが?」
「あー、話と言うのは他でも無い。
お前の結婚についてなんだが、お前もいい歳だろ?」
「いい歳… そうですね?
僕も30になりましたからね?
30から40は人生の中でも脂が乗った時期って言いますから、もっともっと頑張らないと、って思ってますよ?」
「ああ、もっと頑張ってもらう為にも、そろそろ結婚したらどうかと思ってな?
内助の功が居るのと居ないとは違うからな?」
俺がゲイだと知ってて縁談を? フッ…
「ですが、僕は…」
「お前の気持ちは、良く分かってる。
私も理解はしてるつもりだ。
だが、世間は私の様に寛大な人間ばかりではない。
お前達の様な関係は、まだ受け入れられてないのが現状だ。
どうだろう? 一度食事だけでも?
素敵なお嬢さんで、是非お前に会いたいと言われてな?
今夜なんてどうだろう?」
へぇー…準備の宜しい事で…
「お父様が、そこまで僕の事を考えて下さってるなら…、魁斗に今夜の僕の予定聞いてみます。
ちょっと少し失礼します」と、言って涼夜は部屋を出た。