全てを失っても手に入れたい女がいる 2
「お待たせしてすみません。スケジュールの方は空いてましたので、是非今夜ご紹介願います」
「へぇー、珍しいじゃないか?
最近ではデザイナー業だけで無く、テレビ業界にも進出しているお前のスケジュールが、丸一日空いていたとは?
その上、お前がすんなり見合いを承諾するとは思わなかったよ? 彼がいるのに?」
「ええ勿論、僕が愛してるのは魁斗ただ一人です。
でも、僕だって女性の相手が出来ないわけじゃない。
ダンスのお相手もするし、デートしろと言われれば、しますよ?
勿論、お父様の為に見合いしろと言うのであれば、しますよ?」
涼夜の言葉に怪訝な顔をしながらも、満足そうにする父親を見て、涼夜もまた満足げに微笑む。
「で、今夜の僕のお相手は、どちらの御令嬢でしょうか?」
「双葉銀行頭取の御令嬢の鮎 妃都美さんだ。うちの店のお得意様でもあるんだが、彼女は前々から涼夜のファンらしくて、自信党の幹事長からのお薦めもあってな? どうだろう?」
「分かりました。 お父様のご意向と言うのであれば? お会いします」
「相手には絶対、魁斗《かれ》の事は悟られない様、上手くやってくれよ?」
「勿論です!
あ、僕からも1つお父様にお願いが有るのですが…?」
「なんだ?」
「僕としても、今後、結婚して家庭を持てば、もっと頑張らなくてはいけないと思うんです。それで、僕とのモデル契約の件は白紙にして貰いたいのですが?
今後は、もっとAngel kissの経営に力を入れて行きたいと思いまして…?」
「あんな小さな店で、あんな甘ったるいデザインでか?」
「はい。小さくても、僕にとっては大切な宝物ですし、出来れば、店舗数も増やして行きたいと思ってます」
「フッあんなモノをねぇ…分かった。好きにしろ!
だが、今回の見合いは上手くやれよ?」
「分かってますよ?
融資が上手くいく様に上手くやりますよ!」
まだ、融資の話など出していないのに “ なぜ? ” と言わんばかりに驚いた顔を見せる父、雅に、涼夜はおかしくなる。
「僕も一応株主ですからね?
その辺りのことは、僕でも分かりますよ?」