ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「?……よくわかんないけど、マナーか何か?窮屈そうね。イザヤと結婚すれば、かなり自由になれたのに。」


そういい置いて、私はシーシアの寝室を出た。



***

「ティガおはよー!早いね!」



ヴィシュナの木の下で、私はティガに駆け寄った。



ティガは、私の笑顔を見て……苦笑した。

「おはようございます。まいら。……シーシアさまに、ことの次第を聞いたようですね。」

「うん!聞いた!びっくりした!ティガ、止めに行ってんてねえ。ありがとう。」

満面の笑みで、心からお礼を言えた。


でもティガは首を横にふり、声を潜めた。

「まいら。そのことは二度と口にしてはいけません。もちろん、リタやドラコにも、話さないように。」


あ、そうやった。

内緒の話やった。


私は慌てて、こくこくと頷いてみせた。


「あ、でも、それならシーシアにも口止めしないと。」


ティガは、ほうっとため息をついた。

「もちろんいたしました。しかし、既にまいらは知っている。……まったく……シーシアさまに秘め事は不可能ですね。」


「……そうかも。……あれ?」


ひらり……と、白いものが降ってきた。

雪?



……見上げると、朝焼けの空が輝いていた。

雪雲ない……。


ということは?

ヴィシュナの花?


まさか……?


さっき咲いて、もう散ってきたの?

(はかな)すぎる……。


せめて朝食まで待ってほしかったわ。




「……シーシアさま、お力が戻られたのですね。」

ティガもヴィシュナの木を見上げた。


「そうみたい。……よっぽどイザヤが嫌やったんやね。」


苦笑いする私に、ティガは、しれっと怖いことを言った。


「仕方ないですね。シーシアさまには、ご希望通り、ずっと神の花嫁でいていただいたほうがよさそうですね。」


……それって……幽閉扱いじゃない?


あ。

なんか、わかった。


そうか……。

ティガって、すごく丁寧だし、自分の都合のいいひとには優しいけど、邪魔なら(てい)よくよく排除しちゃったり……気質は、とっくに政治家なんだ。


……あたりはよくても信頼できない、ただお互いに利用し合えれば、良好な関係……。



死んだおばあちゃんの親戚にも政治家さんいるけど、うちの家族は、みんな、あまり好きじゃいみたいだった。




ティガも、今は私に親切だけど……シーシアに対してさえこんなこと言っちゃうヒトだったら……。
< 153 / 279 >

この作品をシェア

pagetop