ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「……ほう。あのように盛大な式典と披露宴を開いたというのに……全て、なかったことになるのか……。では、私たちは、婚約者に戻るのか?」

シニカルな口調でイザヤが尋ねた。


ティガは眉をひそめた。

「なかったことになるのではなく、なかったのです。婚約は解消されるか、されないかわかりませんが……いずれにしても、意味をなさぬものとなりましょう。……シーシアさまは、新たに、神の花嫁に就任されます。すぐに神宮へ赴任されます。」


……なるほど。

本当に、なかったことなっちゃうんだ。


何だかなあ……。



「ああ、そうか。初夜の儀に立ち会われたかたがたも、もう……いらっしゃらないんや……。」


もしかして、口封じも兼ねての、皆殺しなのか。


たまらないな。




「まいら。余計なことは言われぬよう。以後お気をつけなさい。」


ティガにそう諭されて、ちょっとほっとした。


「はい。……これからも、そんな風に、注意してくれたらうれしい。ありがとう。」

そうお礼を言ってから、少しおどけて聞いてみた。

「あ。じゃあ、私、もう側室じゃないの?イザヤ、独身なのよね?」



イザヤが微妙な表情になった。

「まあ……私がもはや貴族でも騎士団長でもないのだから……側室などというたいそうなものではなくなるといえるか。……しかし、婚約者どのが婚約解消をせぬ限り、そなたは……そうだな……愛妾ということになるが……。」


「愛妾って……やっぱり、おめかけさん……。側室より生々しくて、なんか、嫌ぁ~。」

思わず本音をこぼした。



ティガが静かにたしなめた。

「まいら。言葉に気をつけないと、イザヤどのの立場を危うくしますよ。……これまでとは、違うのですから。」



……どう違うのだろう。

もしかして、亡国人って……市民権なしの奴隷にでも落とされちゃうのかな。




「……私の処遇は決まっているのか?」

改めて、イザヤがティガに尋ねた。


ティガは、くるりと背中を向けた。

「立ち話もなんですから、食事しながらお話しいたしましょうか。今宵のメインは鴨とのことです。……お二人とも、食事の前に、入浴と着替えをなさったほうがよいかと。……火薬を扱われたのですね。においがいたしますよ。」


「火薬?」

「何のことだ?」


イザヤにも、私にも、心当たりはない。

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