ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
2人の反応が想定外だったらしく、ティガが振り返った。

「……とぼけられても……ご自身ではわからないかもしれませんが、ハッキリ申し上げまして……においます。くさいです。」


冷ややかな目か突き刺さる。


さすがに、くさいと言われてしまっては、女として立ち直れないダメージだ。




「……火薬なんぞ触ってないぞ。薪は入れたが。」

「そんな物騒なもん、あの島にあったの?」



心当たりのない私たちの困惑を置き去りに、ティガは背中を向けて行ってしまった。



あとに残された私たちは、とりあえず、それぞれ、言われた通り入浴して、着替えた。


お風呂のなかで、気づいた。

もしかして、火薬って言われたの……硫黄のにおいじゃない?

昨日入った硫黄の温泉、めっちゃ濃かったもん。


なるほど。

そういうことか。

たしか、火薬の材料に硫黄も使われてたはず。


……うーん……困ったな。

言い訳すると、硫黄の温泉のことも、バレるやん。

今後こっそり入りに行けへんのは、淋しいなあ。

すっごくいい温泉やったのに。


むー……。



てゆーか、硫黄のことを伝えたら、カピトーリ改めインペラータに軍事利用されへん?

それこそ、火薬の材料を提供することになってしまう。


どうしよう……。


後で、イザヤと相談したほうがよさそうね。



あーあ。

温泉も、硫黄も、イザヤのもののはずだったのに。

内緒にしてた分、ややこしくなっちゃったかなあ。


今から洗いざらい言っても、ティガ……誤解は解けても、機嫌は損ねたまんまだろうなあ。

神像を持ち帰ったことも、もっと反応してくれるの期待してたんだけど……。

まあ、楽器を運ぶためにやったことだから、ティガの反応は別に気にしなくていいんだけどさ。

空回りしてる気がする。



……いや。

弱気になってる場合じゃないし。


イザヤの身の振り方、楽器の処分、この館と使用人さんたちの扱い……交渉すべきことは山ほどある。

まだ何一つ解決していない。


問答無用で切り捨てられなかったことだけは、まあ、よかったけどさ。

さあ、これからが勝負だ。


両の頬を、両手でパァンと叩いて、気合いを入れた。


背筋を伸ばし、深呼吸を1つ。



いざ、出陣!


***

食事の席でもティガはクールな顔をしていた。
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