ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「じゃあ、逆に、本当の意味で管理下におさまることはできないの?官職に就くとか、軍隊に入るとか。」


「冗談じゃない!断る!」

イザヤが憤慨してそう叫んだ。


まあまあ……と、なだめつつ、ティガの返答を待った。



「……イザヤどのがこんなに嫌がってらっしゃるのに強要はできないでしょうが……もし騎士としてインペラータのために剣をとってくださるのなら、ドラコはとても喜ぶでしょう。」


ティガの言葉に、イザヤは神妙な顔付きになった。

イザヤとしてもドラコと戦友になることはやぶさかではないのだろう。


でも、私は……できることなら、イザヤに危ないことをしてほしくない……。

穏やかに、楽しく生きる道もあるんじゃないかな。



メインの鴨が運ばれてきた。

握り拳ぐらいの大きな肉の塊が、香ばしく焼かれていた。


ナイフで切ると、柔らかそうなまだ赤い肉から肉汁が少し滲み出た。

……つい、夜中の惨劇を想像してしまった。


鴨は大好きだけど、とても食べられそうにない。



「おや、まいら。召し上がらないのですか?」

ティガに問われ、私はあわてて小さな欠片を口に運んだ。


野趣溢れる血肉の風味に、……吐き気をもよおした。

何とか無理やり飲み込んだら、涙目になった。



「大丈夫か?気分がすぐれなさそうだな。無理せずともよい。まだ、体もつらいのであろう?」


イザヤのいたわりに、私は小さく「大丈夫」としかつぶやけなかった。



結局、その後の甘い甘いデザートも食べられなかった。

せっかく腕によりをかけて準備してくださった料理人さんに申し訳なくて……。


まさかこれがこの館での最後の晩餐ではないだろうけれど、残り少ないであろう機会を無駄にしたくないのに。




「よい。気にするな。……食べられそうになってから、後でフルーツでも口に入れればよい。」


イザヤの言葉をティガが笑った。

「……まるで、ご懐妊されたかのような過保護ぶりですね。」


「さすがに、まだ早いだろう。」

ティガの揶揄を真面目に否定するイザヤに、頭まで痛んだ。


頼むから、それ以上、よけいなことを言うなーーーーーと、イザヤをやぶにらみした。



***

食後は、暖炉のある応接室に異動した。

酒が入り、2人が饒舌になった。


私は、レモネードをいただきながら、心身ともに落ち着かせた。
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