ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
ピクニックの概念がこの世界にあるのかどうかわからない。

貴族で騎士のイザヤが、ピクニックを楽しめるかも知らない。


でも私は、リタでもティガでもなく、イザヤとのピクニックを想像してワクワクした。


イザヤが、一番忌憚なく自分のことを話してくれるから、かな。


いろんな話をもっと聞きたい。

この世界のこと。

この国のこと。

イザヤのこと。



「さっきの楽器……アルファ?また聞かせてほしい。」


だいぶ暗くなってきた。

オースタ島が遠くなり、白い建物も見えなくなってしまった。

イザヤの館のある湖岸もまだまだ遠い。



心細さをごまかすように私はイザヤに話しかけ続けた。



「気に入ったのか。よかろう。楽器は我が家の代々の道楽だ。順に聞かせて進ぜよう。」


順に?


「いろんな種類の楽器があるの?弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器?」


どこまで通じるのかわからないけど、私はそう分類して聞いてみた。


イザヤはニッコリと笑って、得意そうに顎をあげた。

「この世界のありとあらゆる楽器がある。と、断言できる。先祖もみな借金してまで集めてきたからな。……まいらは、何か弾けるか?」


突然そう振られて、私はグッと詰まった。


……一応、ピアノは習ったことがある。


「ピアノ。わかる?ピアノ。ちょっとだけ。すぐ辞めちゃったの。」

両手でピアノを弾く仕草をしながらそう答えた。


「……クラヴィシンか?」

イザヤもまたピアノを弾く仕草をしてそう言った。



くら、う゛ぃしん、ね。



「では、弾いてみよ。」

そう言ったイザヤはとても楽しそうに見えた。

本当に音楽が好きみたい。


「う。わかった。でも久しぶりやから、ちょっと練習させて。指が動かへんかも。」

そう言ってから、ついでにイザヤにお願いしてみた。

「イザヤ。あのね。楽器も弾いてみたいけど、私、この国のことを勉強したい。文字とか、歴史とか、政治経済、天文、地理。まあ、文字だけ教えてもらえたら、あとは館の書斎の本で自分で勉強するから……」


「まるで男だな。」

イザヤは笑ってそう揶揄した。



……そうか。

この世界では、女は勉強しないのか。


ああ、そういうことなんだ。

だから、リタは、私の知りたいことに、全く興味なさそうだったのか。



「……ダメ?もしかして、行儀作法やダンスやお裁縫を学ぶべきだった?」

時代錯誤な男尊女卑のイメージでそう聞いてみた。
< 41 / 279 >

この作品をシェア

pagetop