ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
イザヤは私をじっと見てから、真面目な口調で言った。

「いや。無理にこの世界の価値観に染まらなくてよい。そなたはそなたの常識と感性を大事にしろ。やりたいことをやればよい。勉強したいならティガに教わるといい。適役だ。」



……あ、よかった。


ホッとして、脱力した。


「ありがとう。じゃあ、イザヤが王城で勤務してる時間、私、勉強させてもらうね。……それから……何か私にできること、あるかな?お掃除とか?洗濯とか?……一応、料理は、できるんだけど……。タダでお世話になるの申し訳ないというか……」


「今さら何を言ってる?」


役に立ちたい!という私の健気な決意をイザヤは一笑に付した。


「よい。そなたはそんなことを考えなくともよい。」

「……でも……」

「よい、と言っている。私がルールだ。そなたは私の館で自由に過ごせばよい。」


イザヤはそう言ってくれたけど、私はただ困惑していた。



昨日まで部屋に鍵をかけられて、館で働いている人々にも存在を隠されてたのに、いきなり自由と言われても……。




 
「上を見てみよ。」

イザヤがオールを漕ぐ手を止めた。


釣られて天を仰ぎ見る。


「うーわー!!天の川!?すごい!!光の川!!!」


すっかり黒くなった夜空には一面の星。

とりわけ、天頂を斜めに通るゴージャスな光の川は、まるでスパンコールかミラーボールのように、キラッキラッと輝いていた。


「そっか!これが、かつて月だった塵芥ね!」


ティガに教わったっけ。

土星の輪のようにこの惑星をぐるりと囲った塵芥って、こんなに輝くんだ。


素敵~~~~~!




「どんなところにいても、夜空を見上げれば元気になれる。星の川で方向もわかる。覚えておくがいい。あの星だ。あまり強くは輝いて見えないが、星の川の中にあの星は必ずある。あっちが北だ。」

イザヤはそう教えてくれた。

東西南北、ちゃんとわかるんだ。

  


「昼間はどうやって、北を知るの?」


太陽の位置には法則性がない、とティガは言ってたけど。


「昼間は見えまい。目を閉じよ。肌で感じるんだ。」


イザヤはそう言って、指先を立てて見せた。


何を?

何か、感じられるものある?



いつまでも目を開けないイザヤの真似をして、私も指先を立てて目を閉じた。



……?


よくわからない。
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