ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「わかるか?」

「……わかんない。」


そう言うと、妙な気配を感じた。



え?

なに?なに?


驚いて目を開けると、目の前にイザヤの白い顔がアップになってた!


えええええ!?


目を見開いて硬直してる私を意に介さず、イザヤは私の指先をペロリと舐めた。


舐めた!

何で!?



「最初は濡らしたほうがわかりやすいかもしれない。もう一度、目を閉じてみよ。」


イザヤはそう言ったけど……この状況で目を閉じるのか……。


せめて、もうちょっと、お顔を離してほしいような……。

いや、でも、嫌なわけじゃないし……。



「……イザヤ……あの……」

「何だ?」

「……緊張する……」


そう訴えると、イザヤは首を傾げていたけれど、やっと少し顔を離してくれた。



ほっとしたのもつかの間、

「……かわいいことを。」

ニヤリと笑ってイザヤはそう言うと、指を立ててないほうの私の左手を取った。



「ちょ!」

慌てて左手を引っ込めた。



「……なんだ。丁重に女性扱いしてやろうと思ったのに。」

「お願い。恥ずかしいから、やめて~。」



たぶん私は紅潮していただろう。

頬が熱い。

ドキドキする。




イザヤは、肩をすくめて私から離れると、またボートを漕ぎ始めた。




ようやくドキドキがおさまったころ、やっと指先を濡らした意味がわかった。



「こっちが冷たい。……そっか。風の向き?」

「そういうことだ。もちろん例外はあるが、この時期、風は西からやってくる。」

イザヤはそう言って、オールを上げて示した。

「こっちが西だ。」

「じゃあ、イザヤの館は湖の、うーんと……南南西にある?」

「そうなるな。」

「カピトーリは、()西(にし)。」 

「……ああ。」

イザヤの表情がかたくなった。



「イザヤは、カピトーリに行くことはないの?」


嫌なイメージしかないのかな?


「いや。姉も親戚もいるし婚約者どのもいる。昔からよく行っていた。」


……婚約者のシーシア、か。


「私も行ってみたい。ううん、その前に、オーゼラの街も見てみたい。」


そう言ったら、イザヤは苦笑した。


「オーゼラは可能だが、カピトーリは無理だな。今、私の立場でカピトーリに入ると、あらぬ誤解を受ける。微妙な時だ。」
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