ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「どの国も家や地位を継ぐのは男子だけだ。だが女子のほうが重宝される。能力より門閥のほうが重要だからな。私の姉も妹も他国へ嫁いだ。妹の嫁いだ国……ジェムチはカピトーリに滅ぼされたがな。」


……え?


ざわざわする。

言葉が出てこない。


何て言った?

カピトーリに、滅ぼされた?




え?でも……。

……貴族のお姫様が嫁ぐ相手って……やっぱり貴族だよね?


やばくない?

大丈夫?


もしかして、処刑とか、されてたりする?




「妹さんは……」


お願い、無事だと言って。

祈るような気持ちでそう尋ねた。



でもイザヤは顔色一つ変えず淡々と言った。

「10日程前に、妹の嫁ぎ先の執事が手紙を寄越した。遺体はもちろん骨しか残らないとして、遺品どころか遺髪も強奪されたそうだ。」


ガタガタと体が震えた。


イザヤ、さっきそんなこと一言も言ってなかったのに……お母さんが亡くなって半年って言ってたのに、まさか妹さんまで……



……そうか。

だから、頻繁にオースタ島に通ったんだ。


妹さんのご冥福を祈るために……。




言葉を失った私にイザヤは言った。

「仕方ない。これも運命だ。ヒトを差配してのうのうと生きることが貴族の権利なら、戦乱の責任を取るのも貴族の義務だろう。明日は我が身だ。」



何を言ってるの?

まさか、イザヤも?

イザヤもいずれ、殺されて食べられちゃうの?



やだ……。



思わず私はズリズリと船底を這ってイザヤに近づいた。


放り出された鳥の伊邪耶が、ぴぃぴぃと小さく不安そうに鳴いた。


「いざや、動かんときや。」

……まあ、真っ暗過ぎて、言われなくても伊邪耶は動けないだろう。


伊邪耶は小さく丸くうずくまって、羽根に顔を隠した。



私はイザヤに手を伸ばす。

筋肉質なかたい足に触れると、何となくホッとした。



「まいら?怖くなったのか?……大丈夫だ。」

イザヤの手が、私の肩に置かれた。


「だって……オーゼラも併合されるって……」

「ああ。そのための婚約者どのだ。私と我が家は安泰だろうよ。」


イザヤの言い方があまりにも自嘲的で、違和感を覚えた。


「イザヤ。婚約者のこと好きじゃないの?」

「好きも何も。儀礼的な言葉しか交わしたことがない。美しい人形のような女だ。」


……美人なんだ。
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