策士な課長と秘めてる彼女

彼女の秘密

「お疲れ様です。蘭さん」

元気で可愛らしい声が室内に微かに響く。

彼女は蒼井日葵(あおいひまり)25歳。

株式会社Hashimitsuの広報企画課に勤務する4年目のOLだ。

Hashimitsuは、主に外食産業を手掛けていて、レストランのメニューやコンビニの弁当、スイーツなどを開発・販売している。

日葵は、入職してからの3年間、そうした開発商品の写真を撮り文章を加えて広報紙を作る仕事のアシスタントをしていた。

肩まで伸ばしている茶色の髪は程よくウエーブがかかり、フワフワでさわり心地がよさそう。

大きな瞳と長い睫毛。ツケマやマスカラで盛らなくてもナチュラルメイクで十分に可愛らしい顔をしている。

そう、動物に例えるなら耳の長いウサギ。

カメラとペン、メモを持って、チョコチョコと社内を走り回る姿は愛玩動物のようだと老若男女の社員から好ましい目で見られている。

「あら、日葵。今日は営業部の取材?」

「あ、蘭さん、そうなんですよ。あそこの怖い課長に御用がありまして」

日葵に話しかけたのは、花菱蘭(はなびしらん)32歳。2歳の男児を持つママで、女性ながらに営業部の主任をしているエリートだ。

蘭は、新卒者歓迎会の時にたまたま日葵の隣に座った縁で、それ以来仲良くさせてもらっている先輩だ。

日葵がこうして営業部に顔を出すことがあると、必ず声をかけてくれる。

近頃はランチも二人でとるくらい仲良しだ。

蘭は、眉根を下げて視線を移した日葵の目線を追いかけた。

そこにいたのは、営業部一課長の真島陽生(はるき)32歳。

「ああ、今回は真島がターゲットなのね。お気の毒様」

蘭はパソコンを睨み付けながら黙々と作業する真島を見て苦笑しながら肩をすくめた。
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