策士な課長と秘めてる彼女
陽生の話によると、陽生は3年前から日葵のことを思ってくれていて、満を持して日葵のことを手に入れるために本気でぶつかってきてくれたようだ。

こんななんの取り柄もない、警察犬馬鹿の日葵を3年も思ってくれていたなんて・・・。

日葵にとってはたった一週間でも、陽生にとっては長い3年間の集大成だった。

嬉しいと思う気持ちもあるが、日葵の心には槙の言葉が魚の骨のように突き刺さって抜けずにいる。

「妥協でも・・・、利用でもない?」

「こんなに好きなのに、お前を裏切るようなことをすると思うか?土下座してでも結婚して欲しくて策を講じてきたのに」

「じゃあ、どうして槙さんの言葉を否定しなかったのですか?」

「正直あいつが何を言っても相手にする気になれなかった。俺の気持ちを伝えたいのは日葵だけだし、あいつの話にとりあう時間すらもったいなかった。゛おれの邪魔をするな゛って言ったのが本心だし」

ごめん、と悲しそうな顔をする陽生は嘘をついているようには見えない。

「・・・陽生さんの気持ちはわかりました。ずっと思っててくれたのは嬉しいです。でも、こんなに急いで結婚する必要はないのではないですか・・・?」

陽生は真剣な顔をして日葵の両手を掴んだ。

「日葵はまだ25歳と若いが俺はもう32歳だ。これが最後の恋だと思ってる」

確かに若いと言える年ではないが、男性なら結婚を焦るほどの年ではないのではないだろうか?

「これまで気になる男性が現れなかった日葵に意中の男が現れる確率は何%でそれは何年後?万が一そんな男が現れたとしてそれが俺である確率は?更に、日葵が俺を選んだとしよう。しかし、その時日葵が自分からアプローチする可能性はどのくらいあるのか?」

文系の日葵には確率の話をされても全く響かない。

確率が低いからと行って、強引に話を進めていいことにはならないだろう、と日葵は思った。

「強引なんですよ、陽生さん。私のペースも考えて下さい」

ムッとして言い切った日葵に、陽生が笑顔になった。

「そうやって何でも言い返して欲しい。話をして、喧嘩をして、そして仲直りをしよう。その積み重ねで、俺は幸せになれると信じているし、その相手は日葵しかいないという自分の直感を信じている」

ストレートな言葉が日葵の心に響く。

「いくら考えても結果は同じだと思うぞ?嫌な奴とは一緒にいられない。好きじゃなきゃ抱き合えない。それがシンプルな事実で真実だ」

澄んだ陽生の瞳に自分が映っている。

嬉しそうな日葵は、幸せそうに微笑んで見えた。

「誰の言葉も信じなくていい。俺の言葉が全てだ。俺と結婚しよう。ずっと一緒にいたいんだ」

抱き締める陽生の腕は逞しく暖かかった。

まるで小さい頃に抱き締めてくれた祖父のように。

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