策士な課長と秘めてる彼女
「有給休暇返上なんてもったいないないし、会社にとっても迷惑でしかない。俺の部下は優秀だから心配いらない」

確かにHashimitsuの営業部は精鋭ばかりだ。

課長が数日休んでもつつがなく業務がまわるだろう。

しかし、日葵は陽生を巻き込みたくなかった。

「陽生に何かあったら、私が耐えられないの。ね、お願い。陽生は戻って」

日葵がこうして上目遣いに甘えて見せれば、陽生がメロメロになって強気に出られなくなることはこの数日でわかっている。

案の定、陽生は頬を赤らめて、嬉しそうに日葵を抱き締めてきた。

「ダメだ。俺だって日葵を一人にはできない。日葵のご両親と祖父母に誓ったんだ。何かあったら顔向けできない」

そうだった!

日葵は肝心なことを忘れていた。

今週末は、両家の顔合わせだったのではないか。

結婚、いや、二人の付き合いそのものを考え直そうと家を出たはずだった。

陽生の色気と押しの強さに煙に巻かれて、その上、輝顕と柊の事件で頭が混乱し、すっかり忘れていた。

「顔合わせ、明後日だった、よね?」

「犯人もそんなに長くは逃げ切れないだろう。せっかくだから今日、明日は大人しくホテルにこもって穏やかな時間を二人で過ごそう、な?」

陽生の言葉と裏腹に、その眼差しはちっとも穏やかではない。

ジリジリと迫りくる陽生に

「もう、今日はだめです。輝顕さんや柊くんのことがあったのにそんな気にはとても・・・」

「いや、大事には至らなかったんだし、ただ見守る以外に俺達にできることは何もない。ホテルではやれることも限られてる。だったらこうして二人で愛を確かめる以外ないだろう?」

耳元で囁かれる言葉に、日葵のゾクゾクと体が震える。

落ち込んで不安にかられる日葵を陽生が励まそうとしてるのはわかっている。

何も考えられなくして不安を拭い去ってやりたい。

そんな都合のいい陽生の言葉に心落ち着かせる程には、日葵は陽生に堕ちていた・・・。

そして今日もまた、陽生の意のままに流されるのである。

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