策士な課長と秘めてる彼女
「橋満社長と槙さんは・・・?」

「あいつは娘と部下の不始末の火消しにてんてこ舞いだ。槙に至っては問題外。谷部にも目をつけられたんだ。槙は社内外、どちらにおいてもこれまでのように大手を振って表舞台は歩けないだろうな」

日葵の問いににこやかな笑顔で答える孝明だが、話している内容は辛辣で容赦ない。

「会社はどうなるのですか?」

「重役がことごとく乱れた生活を送っていたんだ。それ以外の真面目な社員には申し訳ないが、私はこのまま不動産を貸し続ける気はない」

真島からの援助を蹴られたら、数千人の社員が路頭に迷うことになる。

大好きな陽生や蘭、尊敬する悠馬のことを思うと日葵の胸は痛くなる。

「だか、橋満は、今回のことも含めて全責任を負い社長を退任すると言ってきた。真島傘下の企業にM&A(Mergers(合併)and Acquisitions(買収))を依頼してきたよ」

真島傘下の企業ならM&Aもうまくいくに違いない。

「陽生、お前がやってみるか?」

孝明の言葉に、陽生は大きく首を振った。

「冗談だろ?日葵と柊を傷つけた槙の親父の会社なんてごめんだ。そんな会社を継ぐなんて、橋満社長や槙の思う壺じゃないか。日葵も会社を辞めると言ってるし、俺もいつまでもHashimitsuにとどまるつもりはない」

日葵は、陽生の言葉に驚いて彼の顔を見つめた。

日葵の退職は仕方ないにしても、陽生までが今の地位、いや、それ以上の地位を捨てることはないのだ。

「陽生さん、私に気を遣っているのなら・・・」

「こいつは人に気を遣うようなタマではないよ」

孝明が日葵の言葉を遮った。

「いいだろう好きにしなさい。お手並み拝見だ。ただし、何かを始めるというのなら日葵ちゃんとの結婚は延期だ。職もない男に大事な娘はやれないだろう」

日葵は、役職についている陽生が好きなわけではないし、どんな陽生にもついていく気はあるが、世間はそうは考えないのだろう。

孝明の言葉を納得すると同時に、なしくずし的に進みそうになっていた結婚が先伸ばしされることへ多少の安堵感を感じていた。

しかし、それも束の間。

その後日葵は、

策士な課長はどこまでも用意周到なのだと思い知らされることになる。

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