策士な課長と秘めてる彼女
日葵は今日がHashimitsuに出社する最終日であったが、最後に会社で陽生に会うことはなかった。

朝は陽生の車で一緒に出社した。

真島課長は会社でも重要な位置にあり、引き継ぎ書の作成だけでなく、お得意先への挨拶、M&A先となる真島傘下の企業スタッフへの申し送りなど、やらなければならないことがたくさんある。

これから一ヶ月間、多忙により陽生と日葵は蒼井家で顔を合わせることも少なくなるだろうと思っていた。

今日は柊が退院して蒼井家に戻る日。

輝顕も警察病院を退院するため、高梨長門の車で一緒に蒼井家まで送ってもらう予定だ。

日葵は、会社近くで長門の車に拾ってもらってまずは輝顕を迎えに行った。

「輝顕さん、退院おめでとう。この度は私と陽生さんへの私怨に巻き込んでしまって何とお詫びをすればよいか・・・」

「何を言ってるんだ。日葵は悪くない。谷部絡みのいざこざはしょっちゅうだ。警察官と警察犬への私怨に巻き込ませたのはこっちのほう。悪かったな」

日葵の謝罪を遮って、輝顕は笑って言った。

「でも、私と陽生さんが付き合わなければこんなことには・・・」

「゛鶏が先か卵が先か゛なんて議論は無駄だ。悪いのは犯人と首謀者であって、犠牲者ではない」

警察官も警察犬も逆恨みされていい迷惑だろう。

命がけの彼らが日本の平和を守ってくれているのだと思うと、日葵は頭が上がらなかった。

「日葵、この際だ。柊を警察直轄の警察犬にするか、ペットとしての家庭犬に戻すか考えてみたらどうだ?」

「いえ、私は今のままがいいです。その為に会社も辞めてきました」

驚く二人に、日葵は今後、Hashimitsuがどのようになっていくのか、そして日葵がこれまで考えてきた転職について話した。
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