策士な課長と秘めてる彼女
3日後、日葵は酸素も取れ、特に後遺症を残すことなく退院した。

蒼井家に連れてこられた柊の首からもエリザベスカラーは外されていた。

日葵を守れなかったからか、柊の尻尾は垂れ下がっており、伏せの状態で上目遣いに日葵を見た。

「柊ただいま。近所の人を呼んでくれてありがとうね。お陰で家が燃えなくてすんだよ」

日葵の言葉がわかるのか、表情で怒っていないことを読み取ったのか、柊は嬉しそうに尻尾を振って、日葵の手の甲を舐めた。

「さて、片付けをしますか!あの夜のままの状態だと思うと気が滅入りそう」

腕捲りをした日葵は、ため息をつきながらも嬉しそうに家の中に入っていった。

燃えた門は、陽生が翌日のうちに業者に頼んで跡形もなく修理した。

燃えた跡を見て、日葵が心を病まないように。

日葵は入院中も、病院にパソコンの持ち込みの許可をもらってデザインの仕事をしていた。

一酸化炭素による脳への影響も考えるとドクターは許可するのはどうか・・・と言ったが、どうしても期日が迫っている仕事だったし、何より心が落ち着くからと、無理をしないことを前提に許可をもらった。

心配をさせたくなかったが、陽生は正直に日葵の両親に事の詳細を話した。

連絡を聞いて病院に飛んできた日葵の両親は、大事に至らなかったことだけを喜んで、何も言わずに帰っていった。

陽生の両親と勇気もお見舞いに来てくれた。

特に日葵を娘のように感じてくれている真佐子は大泣きで日葵の無事を喜んでくれた。

一方で、孝明と真佐子の静かな怒りはおさまらなかったようで、真島傘下の企業へのM&Aは決裂し、槙と関係のあった社員と問題のある社員を除いた社員を引き抜く形で、あっという間にHashimitsuを倒産に追い込んでしまった。

これは、日葵が入院しているたった3日間の出来事である。

Hashimitsuと取引のあった会社には適切な会社をあてがった。

孝明の手腕はそれは見事で、どこからもクレームは出ていない。

いや、真島を敵にまわしたらどうなるかを知らしめた結果とも言えよう。

そんなこんなで、陽生の忙しかった日常はあっけなく幕を閉じた。

しかし、転職先に宛があるのか、陽生は時間通りに出かけては定時に帰宅する生活を続けていた。
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