策士な課長と秘めてる彼女
そんな日常にも慣れ始めた7月。

「日葵」

と、陽生が台所に立つ日葵に声をかけてきた。

「どうしたの?陽生さん」

今日は花の金曜日。

週末の予定は決まっていないが、陽生との時間を楽しみにしている日葵はご機嫌で夕食を作っていた。

「デザインの仕事が軌道に乗ってきただろう?後ろ楯が必要だろうと思って、話を持ってきたんだけど」

「えっ?本当ですか?助かります」

陽生がHashimitsuを辞めて1ヶ月以上経った。

陽生が今、どこに勤めているのか、何をしているのか、日葵は気になってはいたが、話さない陽生にも理由があるのだろうと日葵からあえて聞くことはしなかった。

"真島系列かな?それとも知人の紹介?"

調理の手を止めた日葵は、陽生にリビングのソファまで誘導された。

「日葵を俺の会社にスカウトしたい」

「俺の会社?」

首をかしげる日葵の目は大きく開かれ、口もポッカリ開いている。

さぞかし間抜けに違いない、と日葵は慌てて口を閉じた。

「ああ、ここだ」

陽生が出してきたのはA4用紙に印刷された企業案内。

「sunrise & life コンサルタント。 ウェブデザインと経営コンサルタントの会社だ」

陽生によると、経営と広告のノウハウを伝授するコンサルタント会社だそうだ。

資本金は陽生が全額出し、今後、株式化する予定らしい。

もともと陽生は、海外や国内の株運用と、祖父から受け継いだ不動産運用でかなりの資金を転がしているといった。

会社の設立も簡単にできるほどの手腕だった。

そもそも陽生が、親戚の経営するHashimitsuに入社したのは、社会勉強のため。

ある程度経ったら退職して真島関連の会社に移るつもりだったが、思いの外、取り引き先との関係が心地よく、更には日葵の入社で、ズルズルと退社を伸ばしていただけらしい。

「それなら真島関連の会社に移籍すればよかったではないですか」

「それじゃあ、日葵を傍に置けないし、親父も日葵の家族も納得させられないだろ?」

陽生はスリスリと日葵の頬に自分の頬を擦り付けながら背部から抱き締めてくる。

「え、私のために会社を作ったんですか?」

「いや、全ては俺のためだよ。日葵をずっと傍に置いておきたい。会社はここから歩いて5分のところにあるビルをリノベーションした。社長室はこの家の俺の部屋。これで俺も在宅ワークが可能となる」

あまりの計画に、日葵は唖然とする。

「自由、自由すぎるよ。陽生さん」
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